ここ数日、あちこちの医療系ブログで話題になっている判決についてです。詳しい考察は他のブログに譲りますが、この判決にいかに多くの医師が衝撃を受けているのかより多くの人に知ってもらうために取り上げる事にしました。
産科医療崩壊にまつわる事件が相次ぐ奈良県での事件です。ただ、平成5年の事件ですから、もうだいぶ経っていますね。医療裁判には長い長い時間が必要となり、今回やっと高裁判決が出たようです。
判決文(PDF)
詳しくは判決文を読んでみてください。慣れないと読解が大変ですけども。
新小児科医のつぶやきに判決のあらましがありますから、そちらもご覧ください。
この判決には多くの医師が大きな衝撃を受けています。産科医療の崩壊がどんどん進んでいますが、他科の医師には直接関係する出来事ではありませんでした。しかし、今回の件は救急指定を受けている病院で当直をする多くの医師、当直のアルバイトに行っている医師などにすぐに広くかかわる大問題です。
この件で訴えられたのは当直をしていた脳外科医です。二人の交通外傷患者が同時に搬送され、他の医師に応援を頼むなどして処置にあたったものの二人とも不幸にも死亡されました。判決では当直の医師は脳外科医としては十分な処置を行ったと説明していながら、救急病院で当直するからには救急医療に対する高い技量が必要であり、それをクリアしていないとの理由で敗訴となっています。
上に紹介したブログのコメントにもあるように、多くのDrのショックは非常に大きいものがあります。わたし自身もこの判決に対する印象は同様です。救急を専門とするDrを養成してこなかった日本にはほんの少数の救急専門医しか存在しません。大都市の3次救急を担う基幹病院以外にはほとんど皆無といっていいでしょう。多くの救急病院は内科、外科、整形外科(時に小児科も)なんかのDrが持ち回りで当直しています。病院によっては耳鼻科、皮膚科などのいわゆるマイナー科のDrが当直していることもあるでしょう。こんな判決を突きつけられたら、わたしたちはどうしたらいいんでしょう。多くの医師は、救急医療の高い技量を持たないものは救急にかかわってはいけないのだと判断すると思います。そうしたらどうなるのか?すぐにわかる事ですが、ほとんどの地方から救急病院は姿を消すことになります。医療の進歩とともに専門分野における必要な知識、技術は増えるばかりの現状で、当直をしなければいけない医師すべてが救急医療に対する高度な技量を身につけることはほとんど不可能な事です。
「新小児科医のつぶやき」のコメントを見ていて、ハッとすることがありました。法律専門家のコメントに対してです。コメントしているほとんどのDrは感情的に、とんでもない事としてショックを受けわが身を心配しています。法律家の意見は至って冷静です。これは民事裁判の判決なんだから、敗訴といっても犯罪者になったのではないし、刑事と民事の違いは大きいのだという事です。恐らくこういった考えは弁護士も裁判官も一緒なんでしょうね。この点で、わたしたち医療者の感じ方とは大きな温度差があります。裁判官にとっては、この判決が現状の医療に対して大きな影響をもたらす可能性があり、地方の救急を崩壊させ多くの人命が失われる可能性すらあることも考慮する必要はないんですね。純粋に法的に解釈すれば正しい判決であり、それによって救急医療に問題が生じるならそれは現在の法律あるいは制度に問題があるからであり、それを正せばよいという事でしょうか。
一般の人にとっても救急車で運ばれる可能性はいつでもあります。医療制度について考えるのは医療者だけでよいのではないことを広く知ってもらいたいと思います。
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