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2007年8月 6日 (月)

子供の採血

すでにあちこちで話題になっていますが、小児科医として少し意見を書いてみます。

以下は宮崎日日新聞からの引用です

 宮崎大医学部付属病院で心臓病の長女=当時(2つ)=が手術前に死亡したのは担当医師が適切な医療行為を怠ったためとして、清武町の会社員男性(42)が同大学に約2900万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が30日、宮崎地裁であった。高橋善久裁判長は原告側の訴えを全面的に認め、大学側に約2400万円の支払いを命じた。

 判決によると、男性の長女は2003年9月12日、先天性心臓疾患の手術前の検査を受診。研修医と担当医が失敗を含め計4回採血を繰り返したため、長女は痛みや恐怖で激しく泣き、無酸素発作を起こして虚血性心筋障害で同日死亡した。

 高橋裁判長は担当医は長女が発作を起こす危険性を予見し、注射の回数を必要最小限に抑える注意義務を怠ったと指摘。「計4回の注射で無用な痛みや恐怖を与えたことで発作が起きた」と死亡との因果関係を認めた。

引用終わり

まずは亡くなった心臓病のお子さんにお悔やみ申し上げます。

他の新聞社の記事ではなぜか呼吸困難で死亡との記載が多いのですが、恐らくそれらは間違いで地元宮崎の新聞社の記事による無酸素発作によって死亡したというのが正しいように思われます。推測ですが・・・。

無酸素発作というのは肺動脈に血が流れにくくなるような心臓病(代表はファロー四徴症)で起こる病態です。詳しくは説明しませんが、発作が起きても軽い場合は本人がしゃがみ込むだけでおさまります。重い場合は適切な治療をしても死にいたることがあります。わたしも無酸素発作で亡くなった児の経験があります。発熱が原因で無酸素発作を起こし救急外来に来た時にはすでにショックに近い状態で、普段通院している大学病院にすぐに搬送しましたが翌日亡くなったとの連絡を受けました。無酸素発作の怖さはよく理解しているつもりです。

この裁判では詳細はわかりませんが、争われたのは無酸素発作に対する治療ではありません。無酸素発作の危険がある子の採血を研修医にやらせたこと、その後、手を変わった医師も合わせて3回採血に失敗(4回目で成功)し、“無用”な痛みや恐怖を与えたのが発作の原因と過失を認定したとの記事です。

こじれた原因は恐らく失敗したのが研修医だったためと思いますが、2歳の子の採血で3回失敗することはベテランと言える小児科医やナースにも十分あり得ることです。わたしたちが採血や点滴で失敗することは日常茶飯事、たいへんな時には10回も20回も失敗することすらあります。それほど難しい手技であることを一般の人にも裁判官にも理解してもらいたいと思います。これを裁判官に“無用”と言われてしまっては、われわれはどうしてよいものやらわかりません。裁判長はベテランの小児循環器医がはじめから採血を行って同じ結果だったらどんな判決を出したんでしょうか?これからは採血や点滴の失敗も医療ミスとして扱われものと、わたしたちは理解しなければいけません。

無酸素発作がしばしば起きているようなリスクの高い場合、さらにパッと見で採血が難しそうな場合には研修医に採血させることはないでしょうが、今回のケースがどうだったかはわかりません。研修医が失敗した時点で顔色が著しく悪いなどの兆候がすでに出ていれば休憩を入れたでしょうが、こちらも今回のケースでどうだったかはわかりません。もしこのあたりに過失があったとすれば仕方ないのかなという気持ちもありますが(賠償額の多寡は判断できません)、研修医がかかわったにしても採血の失敗回数が賠償の原因になっているのだとしたら到底納得がいきません。

採血や点滴がうまく入らない時のトラブルは、よほどの腕を持っている人じゃなければ小児科医ならたくさん経験しているでしょう。この判例はそれらのよくある出来事が、例え小額であったとしても訴えられる可能性があることを示したことになります。われわれ多くの小児科医のやる気に影響した裁判であることは間違いないですね。

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コメント

この判決が本当なら小児科医は皆診療をやめなくてはなりませんね。

採血、点滴でどれほど失敗を繰り返す事でしょう。4回なんて普通です。子供にとってはたまったものではありませんが、それが現実です。私の子供は私が出張中にクループになり、地元の診療所で19回点滴を失敗されたことがあります。私自身4回やってダメで手を換えてもらったこともあります。自分で言うのもなんですが、手技として自分はかなりの腕を持っていると自負しています。それでもです。先生も同じ気持ちですよね。

投稿: クーデルムーデル | 2007年8月 6日 (月) 21時36分

この記事を読んだ一般の人は採血に何度も失敗されたらクレームをつけられると思うかもしれません。それでは確かに小児科などやってられません。
研修医や医学生はネットでこのような情報に詳しいです。これで小児科医を志す人が減ることすら考えられますね。

話がずれますが、今流行りの液晶テレビ、現在の技術ではドット欠けを完全に防ぐことはできないそうです。メーカーは何個以内なら不良品ではないと基準を設けていますね。できないことをやれと言われても困惑するしかありません。

投稿: 管理人 | 2007年8月 8日 (水) 17時30分

こんにちわ。採血で亡くなるのはファローだと思います。採血に4回かかったのが死亡原因、とされるのは無謀です。しかし、採血する側もファローは処置中にSPELLを起こして事故になる、ということを十分考えて行わなければなりません。朝すぐには処置しない、複数人で処置をする、酸素は必ず準備する、聴診器を手元におく、などの配慮は必要です。

投稿: 下京の小児科医 | 2007年8月 9日 (木) 12時25分

無酸素発作への備えが不足であったとか発作への対処に何か問題があったという争点であれば納得できる点があるのかもしれません。記事からは外来での検査とも考えられますから。
ただ報道からわかる判決理由は4回注射したことです。
なぜこんな判決になるのか?
確かに採血と無酸素発作の因果関係はあるのでしょう。極端な話、白衣を見て泣いただけでも発作を起こすかもしれません。原告側の鑑定書には因果関係がある可能性が高いと書かれていたのでしょう。ただ、“無用な”とは書かれていなかったはずです。
この言葉を付け加えた裁判長の医師への“悪意”を感じてしまうわたしはどうかしてるんでしょうか?

投稿: 管理人 | 2007年8月 9日 (木) 13時00分

重病患者に研修医に採血なんかやらせるから負けるんじゃないんですか?最初から上の先生がやるか、一回失敗したならすぐ上手な人呼べばいいのに。私は大学病院の医療関係者ですが、失敗して当たり前というスタンスの医者が多くてびっくりしました。そんな病院潰れればいいのにね。腕がないことのただの言い訳です。

投稿: ひな | 2014年10月 1日 (水) 19時26分

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