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2007年8月23日 (木)

弁護士のお仕事

ある弁護士さんのブログが炎上しているとの情報があり、見に行ってみました。あまりにすごい書き込みの量で・・・全部は読んでません。

その弁護士さんは昨年結審した医療裁判を担当していたそうです。この裁判のことはわたしもいくらか知っていました。わたしたち新生児科医には関わりの強い内容ですから。最近、成熟児ではなく未熟児で生まれた子が脳性まひになったとの医療訴訟についてちらほら噂を聞くようになりました。帝王切開が遅れて脳性まひと言う裁判は、今やゴロゴロしています。でも、未熟児で生まれた子が脳性まひになって訴えられるという事例はこれまであまり聞きませんでしたし、わたしたち新生児科医や産科医にとっては大きな驚きです。

新生児医療が発達した今でも、早産の赤ちゃんの脳性まひは避けて通れない問題です。わたしは未熟児の治療は平均台を歩くようなものと思っています。22週の赤ちゃんであれば、長い綱渡りのように難しくオリンピック選手でもなかなか渡りきれないでしょう。これが32週になれば多少のミスをしても平均台から落下しないでしょうが、時に思いがけない突風でミスしなくても落ちてしまう事があるかもしれません。オリンピックの金メダル選手でも常に10点を取れるわけではありません。小さなミスが平均台落下の結果となって、それを責められるのでは医療者は堪りません。思いがけない突風で落ちたのであれば尚更です。ただ、よそ見していて太い平均台から落ちたとなれば責任ゼロとは言えませんが・・・。

炎上しているブログの弁護士さんが担当していた裁判の判決文を読んでみました。判決は産科医の過失を認め一億円を超える賠償を命じています。詳細は書きませんが概略だけ、在胎31週4日に前置胎盤の出血があり、産科医は土曜日であったこともあって即座に帝王切開を決定、生まれた赤ちゃんは呼吸窮迫症候群を発症、脳室周囲白質軟化症により脳性まひになったという事例です。判決文による過失は切迫管理をして妊娠延長をはかるのを怠ったこと、両親に対する帝王切開前の説明が不十分であったことです。

前置胎盤で出血し管理となる妊婦さんはよく経験します。判決文からだけだと詳細な事情は分からないですが、非常に微妙な例だと感じます。出血の量などについて重要なところは双方の主張が違うようで真相は不明です。理想の管理は?と問われれば、この時点で帝王切開ではなく、切迫管理をした上で出血の持続や子宮収縮が抑えられなければ帝王切開と答えるでしょう。しかしながら、31週4日での帝王切開決定が○か×かと問われれば×とも言えないと答えますね。土曜日だからと安易に帝王切開を決定したと原告側は非難していますが、残念ながらこれはある程度仕方ないと思います。週末の緊急帝王切開に平日同様に対応できる病院はそう多くはないでしょう。週末に治療方針を決定することはわたしたちも日常よくあります。病気に週末などないとの非難をもらいそうですが、それを望むような医師数は日本にはいないことを認識しなければなりません。(もちろんそんな事情が裁判に影響しないことは承知していますが・・・)

結論として、一億円を超える賠償を求められれば到底納得いかないというのがわたしの意見です。

この裁判の件や大淀の件についての弁護士さんのコメントが、医療過誤訴訟の専門家を名乗る弁護士としてはあまりに医療に対して認識不足だ!とブログが炎上したわけです。たくさんのコメントを見ていると中にはイカレタ医療者もいるようですが、多くの意見はまっとうなものと感じます。ブログ主さんにはつらい状況でしょうが、口で人をやり込めるのが仕事の弁護士です。筋道だった反論を期待したいところです。

弁護士の仕事ってなんでしょう?光市の母子殺人事件での弁護団が話題になった時に、いろんな議論がありましたね。ネットで見かけた弁護士の意見は、例え容疑者が嘘を主張してもそれを信じて弁護するのが弁護士の仕事として正しいとのコメントがありました。医療者は常に何が正しいのか模索しながら、最も正しいとその時点で考えられる道を進んでいくのが仕事です。法曹にかかわる人との考え方の違いは絶望的に大きいと感じますね。医療者として(一般人として?)法曹に関わる人には中立を望みたいのですが、これは間違った考えなんでしょうか?それでなければ裁判が「真実を知る」ための場になる日は永遠にやってこないと思いますが、どうなんでしょう。民事裁判の目標は相手よりも少しでも裁判官に正しいと思ってもらえる主張をすることです。真実を探る議論は行われません。刑事裁判はどうか?福島大野病院裁判の検察側のやり方(不利になる調書は塗りつぶす、不利になる文献、教科書の採用を拒否など)を見ているとやはり刑事裁判も勝つのが目的としか思えません。

弁護士の良心とは何なんでしょうか?わたしの立ち位置も中立とは言えませんが、医療過誤専門と名乗る弁護士の立ち位置があまりにも中立からズレているように思えてなりません。

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コメント

弁護士の仕事について、私もとても、不思議に思うことがあります。オウム真理教のときもしかり、光市の母子殺害のときもしかり、勝ち負けで裁判をやってほしくないなと思っています。最近、日本人のモラルをよく問われますよね。保育園料滞納、給食費未納、病院内での患者による医師看護士への暴力・強迫など、やっている人は、「法律に違反してない(暴力、強迫は違うでしょうが)」と言います。偏見かもしれませんが、全て法律に照らし合わせる点が”アメリカンナイズ”されてしまっていると思います。たばこを吸いすぎて、肺ガンになった人がたばこメーカーを訴えて、勝ってしまうというようなことが、日本でも起こっていると思います。確かに赤ちゃんが障害を持ってしまった親は大変辛いと思います。誰かに責任をとってほしいという気持ちもわかります。しかし、それを全て、医師側に向けるのは疑問ですね。その弁護士も法律のみに照らし合わせるのではなく、現状を理解する必要があると思いますね。
それにしても、先生のオリンピック選手の例えはとても分かりやすかったです。私の子どもも生まれたときは、2600gだったのですが、産科の先生によっては、「小さかったな。3000g以上あった方が、育てやすいよ」と言われます。今、3歳の娘は元気すぎて、うれしい限りですが。

投稿: ゆいママ | 2007年8月23日 (木) 21時48分

>ゆいママさん

神奈川県の堀病院の看護師内診問題では、影響の大きさを考えた上で起訴が見送られました。検察はそういう判断をすることができるんですね。法曹の人にとっての民事裁判と現場医師にとっての民事裁判の受け取りは大きな溝があります。刑事だけでなく、民事でも現場に与える影響を考えた上での判断をしてもらいたいと思うのは無理な相談なんでしょうかね。

弁護士は正義の味方ではなく、あくまでも依頼者の味方であるという事なんでしょう。医療に裁判が馴染まないのは明らかと思います。
医療は多くの失敗を糧にして試行錯誤の中で進歩してきました。結果が悪ければその度に犯人探しが行われるようでは医療はやっていけません。

未熟児の医療は些細な判断の遅れ、誤りが重大な結果につながります。結果が重大だから過失や罪が重いと判断されるのであれば、わたしたちの医療は成り立たなくなります。また、何らミスがなくとも悪い結果になることもしばしばです。進歩した周産期医療にも越えられない壁はたくさんあります。

長くなりましたがあと一つ。たださえ足りない産科医、小児科医の中で、周産期を専門とするDrは本当にごく少数です。一握りの周産期母子医療センターと同じレベルの医療をすべての病院で望むのは不可能であることを受け入れてもらうしかないのが現状です。

投稿: 管理人 | 2007年8月24日 (金) 18時23分

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