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2008年6月23日 (月)

安心と希望の医療確保ビジョン

先週、厚労省から『安心と希望の医療確保ビジョン』が発表されました。
各報道からは医師を増やす方への方針転換について報じられていましたが、それ以外の内容についてはあまり触れられていなかった気がします。

「安心と希望の医療確保」のための3本柱
1. 医療従事者の数と役割
2. 地域で支える医療の推進
3. 医療従事者と患者・家族の協働の推進
が掲げられています。

1の医療従事者の数については「医師養成数の増加」「看護師などコメディカル雇用数の増加」「女性医師の離職防止、復職支援」などもろもろの策が挙げられています。いくつかどう実現するのか疑問なものもありますが、総論としては賛成でしょうか。

あまり報道されませんでしたが、2と3にも重要な部分があります。

2の中の夜間・救急利用の適正化:限りある地域の医療資源を有効に活用するとともに、医師をはじめとする医療従事者の過度の負担を軽減する観点から、不要・不急時の救急医療の利用を最小限のものとするため、軽症患者による夜間の救急外来利用の適正化や、救急車の適切な利用に関する普及啓発に努める。

3の中の医療の公共性に関する認識:安易な時間外受診(いわゆる「コンビニ受診」。患者によって便利と思えても、患者の抱えた疾病の克服のための必要性が少ない)により医療機関の負担を不必要に増加させ、真に必要な場合に医療を受けられないことがないようにするなど、自らの地域の医療資源が公共のものであり、有限の資源であるということへの理解が必要である。

との記載があります。

中長期的にはまず医師数を増加させること、その上で過重労働となっている科について何らかの対策が並行して取られれば特に医師が不足している科にも人がもどるかもしれません。
しかし、現在の状況としてすでにいくつかの科では需要と供給の間に大きな不均衡が生じています。わたしが今やっている周産期医療もそうですし、小児の救急もそうです。
医師の養成には医学部で6年、初期研修で2年。例えば小児科専門医になるためにはさらに3年の研修が必要で、小児科医として独り立ちするには医学部入学から11年が必要です。
それまで産科や小児科は生き残っているのか??
すでに産科医も小児科医も働きは限界です。どうムチ打ったところでこれ以上は働けません。
どうすればよいかは自明で、需要を減らすしかありません。

その対策が上に引用した「夜間・救急利用の適正化」「医療の公共性に関する認識」です。
敢えて批判も覚悟で書きますが、要は今の救急外来や救急車は「使わなきゃ損」なのが一番の問題である気がします。
救急車はタクシーより安い、というかタダ。こどもの場合、自治体によって年齢制限が違いますが薬局でかぜ薬と座薬を買ったら2000円、病院にかかって医師に診断してもらった上で薬をもらったらタダ。

本当に生活が苦しい人には助成が必要でしょうが、一律にタダではむしろ害の方が大きいのは明らかです。大事に使いましょうと張り紙をしてもタダで使えるものがあれば他の人より使わなきゃ損と思って不思議ありません。

救急車の有料化、病院受診での適正な対価支払いはもっとも早く実現しなければいけない項目と思います。問題はメディアは決してそういう主張はしないでしょうし、政治家もそうでしょう。医療者が主張すれば、もっと儲ける気かと批判されるのは確実。
受診適正化に向けてごく小さな動きではありますが、「県立柏原病院の小児科を守る会 」のような活動が光明です。

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コメント

マスコミよりうんと分かりやすい説明ですね。
2と3に関しての具体的な案があるのかといった不安はありますが、私個人的な意見としては、救急車はタクシーより高額であっても構わないと思いますし、乳児医療費の助成も一部の難治性疾患や慢性疾患の児を除いては必要ないと考えています。
自分の家族や子供の命が危機に瀕しているときに、お金がかかるからもったいないとはあまり感じないはずですよね。
そうすれば、本当に必用なときだけ利用するといった自然な流れが出来る気がします。
もちろん、生活保護世帯など一部の低所得者に対しては無料であっても構わないと思いますが、私の住む横浜市はほとんどのご家庭が小学校入学まで子供は医療費がかかりません。
一部の高収入世帯のみが乳児医療費助成適応の対象外となっています。
昨日新聞で救急車の非常識的な利用状況が増えているとの記事を読みました。
トリアージにも応じてくれる場合とそうでない場合があり、問題になっているみたいですね。
もはや医療従事者側だけでは解決できない状況に陥っていると思います。
政府ももとより国民一人一人がちゃんと考えなければいけないことなんだと思います。
長くなってごめんなさい。

投稿: 友坂美佐子 | 2008年6月24日 (火) 09時56分

最近出張に行った病院でのこと。
休日の救急患者は通常20~30人程度の病院です。ところがその日の救急外来はガラガラ・・・看護師さんが「先生、ラッキーだね~、今日は運動会だから」とのこと・・・
結局その日の救急患者は5人。少なくとも4分の3の患者は運動会なら救急を受診しなくても心配にならない程度の病気だったんですね。
医療者側から救急の受診を制限する事には風当たりが非常に強いし、政治家がやろうとしている乳幼児医療費助成の拡大はまるっきり逆効果です。
メディアがそんな主張をするとも思えません。
小児科医の間ではあきらめの気持ちが広がっています。

投稿: 管理人 | 2008年6月25日 (水) 20時51分

批判覚悟で書きますが、生活保護世帯は、(特に地方に関しては)一般の労働者よりいい生活をしています。医療費を初めとした各種費用負担もありませんし、下手に仕事をするより生活保護になったほうがよっぽどいい生活が出来ます。頑張っている人が馬鹿を見ていると思います。

むしろ、生活保護世帯のほうが生活が厳しくならないと誰も頑張って生活保護から抜け出そうと思いません。実際に、「この人は生活保護じゃなくてもいいんじゃない?」と思える人が沢山います。

ですから、単純に「生活保護だから、無料」という意見には賛同できません。

全く関係ない話でした。
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ここからは、このエントリーに関係する話です。
最近の状況を見ていると、管理人様と同じように「無料だから・安いから」制度が破壊されたと思うことがたびたびあります。利用者のモラルに訴えるのも、20年前以前の日本人に対してであれば通用しましたが、今の日本人には通用しません。(もちろん、私も含めてです)。

となれば、解決できる方法はただ一つ。お金しかありません。

実際に、今年は交通事故死者数が2割減ですが、恐らくその第一の原因は「ガソリン高騰」だと思っています。

ガソリン高騰 → 車の利用減          → 事故減
         → エコ運転(=安全運転)

平成20年6月25日現在
前年比
件数  9,985    -820  (件)
死者     86    -22  (人)
傷者 12,300 -1,165  (人)

(北海道警察ホームページより引用)

今まで散々「安全運転を心がけよう」「死亡事故を起こすと自分とその家族、被害者家族の生活が破壊される」などと言ってきましたが、あまり効果がありませんでした。ガソリン高騰で劇的に改善しました。


救急医療も一緒です。アメリカの様に、夜間専門医の診察を受けると50万円とか、そのくらいの費用負担がないと、恐らく夜間の受診抑制には繋がらないと思います。

医師を増やすのも構いませんが、問題は国民の中で莫大な費用負担をする意思があるのか、ということだと思います。もし、それが無ければ、混合診療・自由診療化(+応召義務の撤廃)をするしかないと思っています。

投稿: 暇人28号 | 2008年6月26日 (木) 09時48分

私も子を持つ母親として、管理人さんのコメントに心が痛みました。
休日や夜間に限って具合が悪くなる事の多い子供達。
不安になる母親の気持ちはとても理解できますが、私達がもっと冷静に状況を判断できるようにならなければいけないのだと思います。
現在このような状況下で働く小児科医の先生達の気持ちを考えると、申し訳ない気持ちでいっぱいになります。
実際私も息子が喘息や食物アレルギーを持っているため、休日や夜間に小児科のお世話になった事があります。
でも、今すぐ命に関わる状況ではなかったです。
運動会を優先できるような状況での受診はさすがに理解できませんが、うちのケースも救急医療本来の役割からすると微妙です。
小児科の先生達はほんとに優しくていい先生ばかりなので、いつも感謝しています。
そんな先生達の思いがつぶされてしまわない事を願ってやみません。
私も、まずは自分自身の行動から見直していこうと思います。
考えさせられるお話、ありがとうございました。

投稿: 友坂美佐子 | 2008年6月26日 (木) 12時27分

生活保護にも問題はありますね。
保険がきく医療の中にも高額なものがあります。C型肝炎のインターフェロンのことが訴訟のからみで報道されていましたね。保険の種類によって差がありますが、月に8万円とか必要になってしまいます。
小児科で高額医療は少ないのですが低身長の子の成長ホルモン療法について外来で話している時に、小児慢性が通らない場合の費用負担を説明すると「うちは生保だからOK!」とうれしそうに返答された事がありました。
生活保護の人にとって医療はまさに使わなきゃ損なんですよね。
モラルに頼る事ができなくなってしまった日本では何か他の方策が必要です。

>友坂さん
救急外来をやっていて「不安」を訴えるお母さんは確かに多いのですが、実のところ別に不安と言うのでなく夜でもくすりをもらいに来るのが「当たり前」と思っている人の方が多いように思います。つらそうな子ども、不安そうなお母さんを見ればわたしたちは仕事が徒労だとは考えません。

投稿: 管理人 | 2008年6月28日 (土) 19時52分

県立柏原病院の小児科を守る会の方々が作られた「受診の目安チャート図」はよさそうですね。イラスト入りの分かりやすい説明で作られていて、ぜひウチの地域でも同じもようなものを配布して欲しいです。

投稿: みきママ | 2008年6月29日 (日) 16時18分

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