集団無責任
首都東京で表面化した周産期医療の問題が連日取り上げられています。
われわれ周産期医療にかかわるものにとって首都圏の周産期医療がぎりぎりの状態であることはすでに知れ渡った事実ですから、特に驚くようなことは何もありません。
総合周産期母子医療センターの認定がどんなものなのかもよく知っています。本来の規定をすべて満たしているところなんていくらもないはず。
自治体は無理にでも(規定を満たしていなくても)認定してしまえば責任を果たしたことになります。病院は規定を満たそうにもそんな人的余裕はない。国立の病院(公立も?)は総合周産期に認定されても補助金はありませんし、メリットがない。
この件について書く気はなかったのですが、今朝、読売新聞を見ていて、断った8病院に対しての『集団無責任』との言葉を見つけてやはり反論は必要だろうと考えました。
地方の基幹病院ではそこが受け入れるしかない。多くの病院がある大都市圏では軽い気持ちで受け入れを拒否できるとの意見が、いろんなところから聞かれます。医療関係者にもそういう主旨の発言をしている方が多いようです。
現在の医療は常にベストの結果を求められていると、わたしたちは自覚しています。昔はその地方の病院にとって、自分にとってのベストを尽くせばよいと考えていましたが、今はそうではありません。首都圏の周産期施設はどこも人手不足でぎりぎりです。仮に他科にも関係するような重症妊婦の受け入れ依頼があった場合、ぎりぎりの状態の自分の施設よりも余裕のあるとこが他にあるかもしれないと考えます。その方がベターだからです。地方の基幹病院では時間をかけて他に搬送する方がベターという状況は少ないでしょうから受け入れることにならざるをえません。
当直の医師だけで対応できず、別の医師を呼び出している間に患者さんが急変すれば責任を問われるかもしれません。NICUがいっぱいで受け入れて、生まれた赤ちゃんの状態が悪かったら・・・赤ちゃんを別の病院に搬送する事でさらに状態が悪くなるかもしれません。ベストを尽くしましたとわれわれが主張したらすべて納得してもらえるのなら安心して治療に専念することができるんですが・・・。現実はどうなっていますか?
ぎりぎりの状況で必死にがんばっている現場の人間を『集団無責任』と切り捨てるとは何とも悲しいことです。きっと正義感にあふれた記者なんでしょうが、その正義感が必死でやっている現場の人間の心を壊しているのを認識すべきです。
もう少し付け加えます。
周産期医療の現場を支えているのは産科医だけではありません。われわれ新生児科医を忘れていませんかね。新聞記者も政治家も新生児科医の存在すら知らない人もいるようです。妊婦受け入れ不能の大きな一因はNICUベッドが満床であることです。NICUを支える新生児科医は非常に不足しています。少し前までは新生児を専門にする小児科医だけでなく多くの小児科医が周産期医療にかかわっていました。しかし、未熟児の脳性麻痺ですら訴訟になるような現在の状況のせいで多くの小児科医は周産期医療にかかわろうとしなくなりました。これまでだれでも診ていたような軽症患者までNICUに入院となるせいで満床が多くなっています。
現在の産科医数、新生児科医数で全国のすべての地方で24時間365日ベストの医療を行うのは不可能であることを知ってください。首都圏も例外ではありません。われわれはできる範囲でのベストを目指します。
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