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2008年10月22日 (水)

小児科医の過労死、損害賠償訴訟控訴審は棄却

立正佼成会付属佼成病院の小児科医中原利郎さんが1999年に過労からうつ病を発症し自殺した事件です。

すでに行政訴訟では過労死と認定され結審しています。これで自殺が労災と認められました。

今回行われたのは病院に対して損害賠償を求めた民事訴訟の控訴審です。過重労働からうつ病を発症し自殺したことは認められながら、病院には責任がないとして原告側遺族の主張は認められませんでした。

詳細は以下のHP「小児科医師、中原利郎先生の過労死認定を支援する会」にあります。中原先生の遺書にもぜひとも目を通していただきたいと思います。

中原先生が勤務していた小児科は6人が常勤として働いていましたが、3人が退職(のちに1人補充)し小児科のトップとなった中原先生に大変な肉体的、精神的な負担がかかったそうです。99年の3月は当直が月に8回、休日が2日のみ。まもなくうつ病を発症し、8月に病院の屋上から飛び降り自殺してしまいました。

労災認定を求める行政訴訟の中で国は、月に8回の当直といっても実際に業務についている時間は短く過重労働ではないとの主張をしていました。月8回当直、休日2日というのは先月の自分の勤務とまったく一緒です。他人事ではありません。もし仮に一晩に1回か2回しか仕事がなかったとしても、夜中の2時、4時に起こされたとしたら徹夜したのとほとんど差はありません。しかも朝からはそのまま通常勤務となります。中原先生が自殺したのは44歳の時、自分は今41歳です。体力的に非常にきつかっただろう事はよく理解できます。それに加えて、精神的な負担が大きかった事もよくわかります。NICUは比較的採算を取りやすい部門ですが、一般小児科だけの場合には小児科の稼ぎは非常に悪くなります。

行政訴訟でも、今回の判決でも過重労働が自殺の原因であることは認められました。しかし、病院には一切責任がないとする今回の判決は非常に残念です。一人の医師に月8回当直させ、休日が2日のみという過重労働を強いた病院に責任がないはずがありません。中原先生は管理職であり自分に8回の当直をつけたのは中原先生自身だったでしょう。でも、他にどんな選択があったのか?今はそういう病院から粛々と医師が去っていく時代になりました。しかし、中原先生が亡くなった当時はまだそんな考えは思いもつかない、医師であればしてはいけないと考えていた時代でした。

医師が聖職であるとみなが考え、医師自身も自覚していた時代。医師としての責任感で過酷な地方勤務も過労死基準を超える時間外労働もこなしていました。近年の患者側の医師に対する見方の変化、国やマスコミによる医局弱体化、臨床研修制度スタートによって自由を手にした若い医師を間近に見たこと、いろんな要因が長年に渡って医師を縛っていた呪縛を解いてしまったように思えます。

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コメント

はじめまして、しがない医学生のカイと申します。

まだ不確かながら、小児科医を目指している者としては、無視できないニュースです。先日、福島の大野病院の件が無罪判決となって、ホッとしている矢先にこの判決。

そして、脳内出血の妊婦たらい回し問題。

半分医療関係者としては行く末が気になってなりません。

投稿: カイ | 2008年10月24日 (金) 22時36分

>カイさん、はじめまして

様々な面で医療の問題が噴出していますね。
一般の人が医療について深く考えてくれることを望みたいのですが、報道を見ている限り難しそう・・・。
東京都の妊婦受け入れ問題について、ベッドが空いてなくても医師の手が空いていなくても患者を受け入れろなんて言ってる民主党の議員が次の内閣厚生労働大臣だそうで・・・。いったい何を勉強しているのやら。

亡くなった小児科医や今回の墨東病院産科医、全力を尽くして頑張っているものへ敬意を払ってもらいたいものです。
これから小児科医や産科医を目指す若者のために少しでも改善に向かって欲しいと願っています。

投稿: 管理人 | 2008年10月26日 (日) 18時07分

本当に大変な状況ですね。うちの子は代謝異常ですが、小児科の夜間診療が地域では輪番制で発症当時は真っ青な子供を抱えて一時間かけて当番病院へ行った事もありました。
色々な政治的背景を別として医師に対しての環境を考える時であると思います。そうすることでもっと難治病に対しての対応や救急対応が良くなると思うのですが・・・。コンビニ受診と思わずただ自分の子供が心配でたとえ軽度であっても受診している親はたくさんいます。でも、誰が軽度ある事を保障してくれるのでしょうか?電話相談でも回答はあやふやです。
現場環境が少しでも改善され、医師も患者も安心できる環境があればと思いました。

投稿: みんみん | 2008年10月27日 (月) 22時39分

みんみん様:

>誰が軽度ある事を保障してくれるのでしょうか?電話相談でも回答はあやふやです。

仰るとおり、そんな保障は誰にもできません。どんな高度な精密検査を繰り返しても不可能です。

「悪魔の法則」というのをご存知でしょうか?  「存在することは証明できても、存在しないことは証明できない」 ことです。

お化けに例えてみます。お化けがいるかいないかわかりません。
実は今までお化けがいることを証明できた人は一人もいません。
(テレビの太鼓持ちは「お化けがここにいます」なんて言っていますが、あんなことは誰にでも言えます。本当にお化けが見えるのなら、ぜひランディーのサイキックチャレンジを受けていただきたいです(笑)。)
ttp://www.nazotoki.com/randi.html

しかし、存在しないことを証明することは 存在することを証明することよりはるかに困難です。というより不可能です。
だって、もしかしたら今の時点ではお化けを見つける方法がないけど、将来新しい方法が発見されるかもしれないし、今そこにはいないだけで、別のところに存在しているかもしれないからです。

ですから、「重大な病気がないことを証明して安心させてくれ」と言われても誰も出来ないのです。となれば、「見た目に軽症だから夜間に受診するな」とは言えないのです。


だからと言って、誰でもいつでも自由に診療を受けてしまえば、お金も人的パワーも破綻してしまいます。となれば、何らかの受診抑制が必要です。見た目の重症度で100%確実な診断ができないので、それによる受診抑制は不可能です。とすれば、後はお金による受診抑制を図るのが一番ではないでしょうか。そもそも、日本の夜間休日の診療費は格安です(日中はもっと格安です(;_;))。これを十分採算の取れる値段に設定するだけで患者さんの受診抑制にはなります。夜間診療をしようとする医療機関も出てくることでしょう。ただ、その際には窓口負担は最低数万円になりますが。

最近の報道を見ていると、「自己負担を増やすのはいやだけど、とにかく社会保障サービスを充実させろ」という論調が目立ちます。そんな都合のよい「打ち出の小づち」なんてどこにあるのでしょうか?

今の医療サービスを維持するために税金・保険料を増額させるのか、あるいは混合診療を導入するのか。選択肢は2つしかないと思います。

投稿: 暇人28号 | 2008年10月28日 (火) 16時28分

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