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2010年6月19日 (土)

感想 『救児の人々-医療にどこまで求めますか』 熊田梨恵著

『救児の人々-医療にどこまで求めますか』熊田梨恵著 ロハスメディカル叢書01
の感想です。

著者は社会福祉士の資格を持ち、現場で働いた経験、福祉業界誌の記者の経験もある方のようです。
2008年のいわゆる「妊婦たらい回し事件」の取材を通して新生児医療を知る中で、著者が感じた最新医療における矛盾と限界を、NICUに関わる医療者、NICUに子どもが入院していた家族の取材から、うまく描き出した良作と思います。

プロローグの中で日本の新生児医療を「ゴッドハンドレベル」などと表現するところがあり、あっ・・・こりゃダメな本かなと思ったのですが、読み進めてみるとなかなかよい内容でした。

日本の周産期医療が世界一安全であるのは、いろいろなデータから間違いのないことです。にもかかわらず「安心なお産ができない」との妊婦の声がマスコミからはずっと流されています。

医療にどこまで求めるのか?

これはわたしたちが訴えたかったことではありますが、医療者の声がマスコミに取り上げられることはほとんどありませんでした。新生児医療の外にいる人がこういったメッセージを送ってくれることは非常に有意義と感じます。ただ世間は自分に直接関係ないことには本当に無関心ですからね。この本をNICUに関わったことのない人が手に取ることはまずないでしょう、残念ですが・・・。

わたしは学生にNICUを見せる時にいつも話していることがあります。ここでやっている医療は究極のぜいたく医療だということです。新生児医療に多額のお金を使っているのは一部の先進国だけです。発展途上国にとって優先させるべき医療は他にいくらでもありますから。

1000g未満の出生体重で生まれた超低出生体重児の場合、1日の入院費用の基本料金は10万円です。この1日10万円は病状により90日間適用されますから、NICUに90日間入院すると入院費は900万円プラスアルファとなります。特に小さく生まれた赤ちゃんだと、退院までの入院費は1000万円を超えることもしばしばです。但し、親の収入にもよりますが、養育医療という助成があるためにほとんどの家庭では負担は限りなくゼロとなります。これだけのお金を使っても命を救えないこともあり、命が助かっても思い障害を残すケースもあります。
これだけ高額の診療報酬があっても、NICUの医療は通常黒字を生み出すことはできません。儲かっているNICUがあるとしたら、どこかで必要なお金を削っているんでしょう。

たらい回しを減らすためにNICUを増やせとの声が上がり、NICUには補助金が出ています。しかし、NICUを支える新生児科医がいない。NICUを退院したハンディを持つ子どもたちへの支援はひどく乏しい。医療に何を求めてどこにどれだけのお金をつぎ込めばよいのか?いろんな人に考えてもらいたいことです。マスコミはたらい回しをヒステリックに報道しましたが、実に底の浅い取材ばかりでした。

そんな中で地元札幌テレビ制作のNNNドキュメント「アラームに囲まれた命 NICU…医療と福祉の狭間で」はよい内容でした。見たい方は動画でググってみてください。

札幌テレビの取材スタッフ、この本の著者のような感性を持った報道がもっと増えるといいんですがね・・・。
でも、そういう感性を持った記者が少ないのと同じに、一般の人にもそういう感性を持った人は少ないのかな。

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